音楽家のパラレルキャリア

私は20代からずっと「音楽やるなら音楽一本で生きていかなきゃダメだ。それこそが本物だ。」という思いに縛られてきました。実際には音楽1本ではどうにもならず、でも卒業後はもう親に頼りたくなかったので、とにかくアルバイトをしながら音楽活動をして、これまでに6社以上で働いてきました。その現実は、なかなか人に自信を持って言うことができませんでした。それはつまり「私は音楽で食べられないんです。ダメなんです。」と同義語だと思っていたから。

自分の中で潮目が変わったのは数年前に「ナリワイ」を提唱している伊藤洋志さんに自由大学で出会い、著書「ナリワイをつくる」を読んでからでした。月3万円の仕事を10個作り、自ら生み出した仕事を広げていくことで人生の主導権を握ろう、という内容だったと理解しています。それを読んで、目からウロコでした。自分を肯定できるようになったし、音楽以外に仕事を持つことは恥ずかしいことでもないと思えるようになりました。

そしてそういう視点で、日本で歌を続けている他の方の履歴を見てみると、大手企業で働きながらとか、スーパーで働きながら、清掃の仕事をしながら、学校で教えながら、オペラやコンサートに出演している人が沢山いました。音楽家への金銭的サポートがほとんどない日本では、フリーで食べていくのはとても大変です。出演が決まってもチケットノルマがあるし、生活できるほどギャランティが出る公演はあまりありません。「音楽だけで食べられないなら音楽をやめる」という覚悟で臨むか、「それでも音楽をやめられないから他の仕事をしながらでも続ける」という方をとるのか。

しかし世界を見渡せば、アレクサンドル・ボロディンは化学者で作曲家でありましたし、日本で活躍しているアン・サリーは内科医でシンガーシングライター、へヴィメタルバンド「アイアン・メイデン」のボーカリスト、ブルース・ディッキンソンは国際線パイロットでした。

これまで日本では「音楽で収入があって食べていけていること=プロのミュージシャン」という認識が強かったかと思います。音楽やってます、と言うと「すごいわね、お仕事は何を?」仕事名を言うと、「音楽を生かさないなんてもったいない」と言われたり。。しかし今は会社員であっても昔のように安定は望めない時代。「福業」「複業」「副業」「パラレルキャリア」などという言葉があるように、世代を問わず自分の食い扶持を、自分の得意なことや求められることでどんどん作っていく時代。音楽業界も同じなのではないでしょうか。昨年の記事ですが、日経新聞の会社員・医師兼業音楽家、クラシック界に新風という記事、これなんかも面白い。

そんなことを考えて来た結果、今は、音楽家も他にも仕事を持っていていいじゃないか、と私は思います。今の私の仕事は、10年以上続けている輸入食品小売会社での不良品返品の仕事と、声と心が繋がっていることを重視して歌を教える仕事。今後は文章を書くこともしていきたいことです。

ただ仕事への向き合い方は人それぞれ。音楽一本の人、本業に軸足を起きつつ音楽をやる人、音楽をはじめ様々な仕事をする人、それぞれを肯定できる社会であって欲しいと思います。

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